バケツ

言葉を吐きます

幸福なホームレスと不幸なサラリーマン

幸福なホームレスと不幸なサラリーマン


あるところにホームレスがいました。
彼には家もお金も何もありませんでしたが、日々の生活に多福感を感じていました。
木々のざわめきや人々話し声、照りつける太陽、アスファルトのにおい。
そういったものがあるだけで彼は満たされるのでした。
ゴミをあさり、公園の水を飲み、路上で寝る。
それでも彼は街ゆく人に劣等感や恨みは感じず、ただ生きていることに感謝し幸福な日々を送っていました。




あるところにサラリーマンがいました。
彼は上場企業のエリート社員であり、常に時間に追われる日々を送っていました。
モデルのようにキレイな奥さん、今年で4歳になる息子と2歳の娘がおり、都内の閑静な住宅街のマンションの一室に住んでいますが、決して奥さんとの仲は良くなく、家にほとんど帰らない為、息子や娘からは特に興味を持たれていません。
よく考えれば奥さんと結婚したのも
「キレイだから、周囲から羨望の眼差しを受けるだろう」くらいの理由で、特に愛があるわけでもなく
また奥さんも「この人はお金持ってるから少なくとも食に困ることは無いだろう」といった理由で結婚したため、特に彼に対して愛があるわけではありません。
彼はふとした瞬間になんのために働いているのか分からなくなりますが、仕事をして気を紛らわせ、時間に追われる日々を送っています。

ある日の朝、今日も照りつける日差しが彼を苛立たせ、不味い缶コーヒーを飲んだ後、仕事に向かいます。
仕事に向かう途中、駅の隅に座り込んであくびをしている小汚い男がふと目に入りました。
彼は心の中で
「ホームレスか。あんな生活するよりは、結婚もして、キレイな奥さんもいて、子供もいる。絶対俺の方が幸せだな。よし、仕事頑張ろう」
と自分を奮い立たせ、改札口へ歩を進めました。
さあ、一日の始まりです。



サラリーマンがそんなことを思っている中、駅の隅に座り込んだ小汚い男は
「色んな人がいるのだなあ。面白いなあ。」
と、改札に向かう人々を眺めて、なんとなく幸せな気持ちに浸っていました。
そして、しばらく人々と眺めると
さて、何をしようか、空き缶でも集めようか。とゆっくりと立ち上がったのでした。