子殺し
夏、日差しが照りつけて、アスファルトの上に陽炎を描く。
少年は風通しの悪い蒸し暑い部屋で、自宅に篭って、どこにもやり場の無い性欲を1枚のティッシュにぶつける。
むき出しの欲望はゴミ箱の中に吸い込まれるように消えて行ったようだが、ゴミ箱の中を覗き込めば、そこにはしっかりと欲情の痕跡が残っている。
少年はそんなことすっかり忘れて、テレビゲームに没頭する。
何度もクリアしたゲームだ。
だけど、また繰り返す。始めから。
愚かしいほどに。
でも、それは悪いことじゃない。
そこには完結した少年の世界がある。
ちっぽけで情けなくてくだらないが、しっかりとした完結した世界だ。
どこにも行けないし、行く必要の無い世界だ。
だから私は、何も言うまい。
欲情の痕跡の香りに、蝿が集る。
小さな蝿だ。
小さいが生きている。
小ささ故に、その命のサイクルは短く、早い。
少年の欲情の中に宿った命の欠片を貪った蝿は、自らの子孫を残すために、卵を植え付けた。
その卵の中には、希望も何も無い。
ただ、また同じことを繰り返すようプログラムされた、圧倒的な現実があるだけだ。
少し日が経って、卵が孵る。
そして、現実を背負った蝿が飛び立つ。
一定の香りに向かうようプログラムされただけの存在。
ロボットと何が違うのか。
その答えは誰も知らない。
そして、蝿が飛び立って、数秒後。
部屋にいた少年は飛んでいる蝿を見つけ、両手の平で、その小さな命を潰す。
手についた蝿の死骸を振り落とし、ペットボトルの炭酸飲料を口にする。
達成感のような何かが少年の感覚に響き、また少年は、プログラムされたかのようにテレビゲームに向かう。