バケツ

言葉を吐きます

カマキリの恋

蝶に恋をしたカマキリの話し


あるところにカマキリがいた
力強く太い鎌を持ち、他の同種の追随を許さぬほどの強さであった。
しかし、どこ種にも突然変異というものは起こるもので、そのカマキリは同種に対して一切の性欲を見出すことができなかった。
その代わりカマキリが性欲の対象として見出したのは、蝶である。
ひらひらと美しく舞う蝶の姿を見てはカマキリは性的興奮を抑えきれなくなるのだ。

交尾に対する性欲は人間で言う 恋 のようなもの
カマキリは蜜を吸いにくる蝶を待ち伏せてはいつもその恋心をぶつけようとする

それは人間で言う 抱きしめたい という気持ち。

今日もカマキリは花の近くで待ち伏せ、蜜を吸いにきた蝶を、その太くたくましい二本の腕で抱きしめる
抱きしめられた蝶は二本の腕から逃れることができず、もがくことすらできず己の運命を悟る
カマキリの性欲が独占欲に、そして食欲に変わって、気づけば蝶をむしゃむしゃと食べる
カマキリは己の中の虚しさに気づかず、満たされた空腹と満たされぬ恋心を抱えたまま、また蝶を見ては心をときめかせるのだ

ああ、なんと哀れなカマキリであろう