いかちゃんの物語

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ポルター・ガイスト

蒸気機関車の走る白黒映像はところどころぶつ切りになっている。

白黒の自動車が砂利道を走って、白黒のコートを着た人たちがぞろぞろと白黒の町を歩く。

白黒の兵隊たちが死体を片付けて、焼く。

死体は真っ黒に見える。きっと血まみれなのだろう。

白黒の子供たちがはしゃいでいる。

ハロウィーンの衣装に身を包んで、近所をかけまわる。

ここは、平和そうな町だ。平和な町で子供たちは自由気ままに過ごす・・・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・今見てもらっている映像は、まだ僕たちがうまれていなかったころのアメリカの映像だよ。

そのころのアメリカでは”ゴースト”我々が幽霊やお化けと呼んでいるものは夜中に突然姿を現して我々を脅かすものだと思われていたんだ。

そして、一度姿を現したゴーストはもう二度と現れない。

それが決まりだった。

なぜなら、人を脅かしたゴーストは”あの世”へ連れて行かれるからだ。

それに、どんなゴーストでも”あの世”に行きたがった。

”あの世”では会いたい人に会えるし、ほしいものはなんでも手に入るからね。

 

そう、つまりゴーストたちが楽園である”あの世”にいくには人を一度限り脅かせばいい。

それがゴーストたちの使命だった。

簡単なことなんだよ

大体のゴーストは”あの世”の存在を知った瞬間近所の家に入っていって、そこにいる人たちの目の前に姿を現して驚かす。

そうして”あの世”へ向かっていく。

 

それでも、変わったやつもいる。

”あの世”に行きたがらない変わり者の”この世”に未練があるゴーストたちだ。

彼らは人を脅かすことなく、同じようなゴーストが集まるゴーストハウスに集まった。

そのときここには6人くらいのゴーストが集まってたかな。

ここは不気味だし、人は寄り付かないから人を脅かす必要もない。

彼らはみんな”この世”での生前の話ばかりして盛り上がった。

今日もゴーストハウスのリビングに集まってみんなで昔話。

抜けた床板、くもの巣、ほこりをかぶったピアノ、ボロボロのソファーに割れた窓ガラス。

 

ここでは、そんなゴーストハウスに集まったゴーストのうち、一人のゴーストの話をしようじゃないか。

 

 

彼の名前は、ポルタ。

といっても、これは本当の名前じゃない。

他のゴーストが適当につけただけさ。

他のゴーストはみんな生前の自分の名前を覚えていて、記憶もあるんだけど、彼の生前に関しては何もわからなかった。

なぜかって?

彼には頭がなかったからだ。

 

理由はわからない。首から上はちょん切られたみたいに無くなっててさ。

首から下はボロボロのチェックのシャツとジーンズで、もやしみたいな体だった。

ゴーストになっても、頭がなければ考えることも記憶もできないみたいで、彼はいつもゴーストハウスのリビングの入り口に座ってた。

何も考えられないし、自分が何者かもわかってないんだけど、なんとなく”あの世”に行こうとはしてるみたいだった。

 

たまにゴーストハウスに遊びにきた子供を、脅かそうとしてたからだ。

 

ただ残念なことに、頭がないとゴーストってやつは、人前に姿を現したり消したりってことすらできないんだよね。

その場に立ち上がって手や足を必死に動かしてるだけで、姿を見せられないポルタはいつも脅かすことに失敗してた。

というより、人間に気づいてすらもらえてなかった。

 

周りのゴーストは、ポルタのことを哀れんでもいたし馬鹿にしてもいた。

ポルタが遊びに来た子供を脅かそうとして、失敗する。

それを見てみんなで笑ったり、同情したり。

「ポルタあ、そろそろ諦めたらどうだあ?」

「子供がいるのはそっちじゃねーよ!ガハハ」

なんて具合にね。

まあポルタにはそんな声、聞こえていなかったんだけど。

なんせ”耳”もないからね

 

 

でも、そんなある日、奇跡が起きたんだ。

午前中は晴れていたんだけど、午後から急な嵐に見舞われた。そんな日だったな。

ゴーストハウスの近くで遊んでいた4人組の子供たちは急な嵐から身を守るため、ゴーストハウスの中に逃げ込んできた。

ポルタはいつもみたいに立ち上がってそこで手や体を動かして必死に脅かそうとするんだけど、子供たちはまったく気づかない。

「ポルタ~てめえよりその辺のくもの巣のが怖がられてんぞ!」

なんて、相変わらず馬鹿にされてた。

 

子供たちはポルタに気づかずにゴーストハウスのリビングに入っていって、

ソファーを指差して「ここに座って嵐が去るのを待とう」なんて話してた。

勇敢そうで怖いものなんて無さそうな子供たちだった。

 

彼らがリビングのソファーに腰掛けると

ふと、ポルタは”ぴたり”と動きを止めた。どうしたんだとみんな息を呑んだ。

ポルタはこれまで、人が去ってゆくまで、いや、去っていっても脅かそうとすることをやめなかったからね

「おい、どうしたんだ?」

みんなが気かけてポルタに近づこうとした。

 

そして次の瞬間、

 

ポルタは全速力でゴーストハウスの中を走り回ったんだ。

 

何も見えないからいろんなものにぶつかって、棚がガタガタと揺れたり。

ピアノの上を走り回ったときは古いピアノが不気味な旋律を奏でたり

ガラスにぶつかったときはガラスが割れたりさ

その間ポルタは一切子供たちに姿を見せることがなかったんだけど、それでも彼の存在は子供たちに確実に伝わった。

子供たちはあまりに恐ろしくなってゴーストハウスを駆け出していった。

 

これがポルタにできる精一杯の”脅かすこと”だったんだ。

でも、結果的にそれは大成功だった。

 

そうして、ポルタは無事に”あの世”に行くことが出来た。

 

 

それにこの出来事は、脅かすことが姿を見せることだと思っていた僕たちにとっても衝撃的な出来事だった。

なんせ姿を見せなくても脅かすことができるって判明したわけだからね。

僕たちはこの出来事のことをポルタの名前・・・ポルタ・ゴーストをもじって

ポルター・ガイストと呼んでる。

 

いいネーミングだろう?

 

こうやって、このゴーストハウスにこの出来事は語り継がれていくってことさ。

いい話だったでしょ。

 

じゃあ、今日のところはこれでおしまい。

 

僕?僕はね。あれだよ

あの日、嵐の日。

ポルタに脅かされて、嵐の中を飛び出していった子供の一人さ。

 

今は未練があって、この家に住んでる。

ようこそ、ゴーストハウスへ。