いかちゃんの物語

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ひまわり畑の夢

この荒れ果てた地が昔一面のひまわり畑だったことは私がよく知っている。

あれはもう20年ほど前のこと。
私が小学一年生の時だ
学校でひまわりという植物について知った僕は母親に頼んでひまわり畑に連れて行ってもらったのだ。
父は仕事だったので、母と兄と私の三人でひまわり畑に行った。

ひまわり畑には燦々と太陽の光が降り注いでいて、辺りにいる観光客は皆額に汗を流していた。
ひまわり畑にみっしりと生い茂るひまわりを見て感動した私は母に言った。
「見てよ!こんなにひまわりがたくさん!本当に太陽の方を向いてるんだね!」
母はどこか遠くを見るように一度僕から目をそらした後、私の方を再度見てニッコリと笑い
「そうね」
と言った。
それを見た兄はどこかつまらなそうな顔をしていた。

しばらく三人でひまわり畑を見て回ると母は
「少しお手洗いに言ってくるからここで待ってるのよ」
と言って去っていった。

二人きりになると兄は私に尋ねた。
「なあ、知ってるか?このひまわり畑の真実」
「真実?」
「そうだ。教えてやるよ。」
そういうと兄は話を始めた。
「このひまわり畑に咲いてるひまわり、本当のひまわりじゃないんだぜ。人間が作った偽物のひまわりなんだ。太陽センサーの働きで太陽の方角を向くようにプログラムされてる、ロボットなんだ」
「それ、本当なの?」
「ああ、本当さ。夜中になるとひまわり整備士たちが太陽センサーの感度が鈍ったり花びらの色が落ちてきてないかチェックしにくるのさ。それでこのひまわり畑は保たれているんだ。」
「嘘だ・・・」

その時私は兄の言葉を完全に信じることができなかったが、後に父に問い詰めることで全ての答えを知ることができた。


この世界にあるはずの本物のひまわりは絶滅してしまっていて、ひまわりは全て人間が作り出した偽物、ロボットであるということ。
地球の周囲を周る宇宙ステーションに、最後のひまわりの種が保存されているらしいということ。
そしてひまわりだけでなく、他の植物も今ほとんどの種が絶滅の段階にあるのだということ。

植物が酸素を生み出し、そのおかげで生きているということは私もよく知っていたから父に尋ねた。
「じゃあ、、、僕らの未来はどうなるの?」

父は何も答えず、ただ私と目を合わせないようにするだけだった。

 

それから20年の月日が流れた。
人類はほぼ絶滅してしまい、争いの果てに、この星には荒れ地だけが残った。
数少ない残された人類もほとんどがシェルターの中で息絶えるだろう。

そして私の命ももう長くはない。
酸素ボンベが尽きそうなのだ。呼吸が荒くなっている。
私はもうすぐここで息絶えるだろう。いや、息絶えねばならないのだ。

最後の”種まき”のために。

かつて輝いていたひまわり畑だったこの荒れ地に、もう一度あの時の輝きを取り戻せないかと、私はそのために生き続けてきた。そして、全てをかけて今この手に持っているのは、本物のひまわりの種だ。
養分はある。私がここで死ねば、私の死体で、土はある程度肥沃になるだろう。
水分も大丈夫だ。雨は定期的に降る。
あとは太陽だが、それは神に祈るしかない。
この星はほとんど雲に覆われていて、太陽の光をほとんど受け付けなくなってしまっているのだ。
私が死んだ後、太陽の光が射してくれることを祈ろう。

さて、種まきをして、息絶えるとしよう。
ここにまた美しいひまわり畑が出来ることを信じて息絶える。それこそが、幸福というものではないだろうか。

今右手で荒野の土を掘っているのだが、とても固く感じる。
土が固いのか、私の力が弱いのか。それはわからないが、、、。

 

さて、種まきは終わった。
あとは、この酸素マスクを外すだけだ。
右手が、震えているようだ。
大丈夫、少し力を加えるだけでいい。

 

かつてひまわり畑だった荒れ地に、男の屍が倒れこんだ。
じきにその体は腐り始めるだろう。

男が倒れこむその一瞬、空に敷き詰められた雲の隙間から一瞬太陽の光が男を照らしたことだけは、ここに記しておく。

まわりが咲くかどうかは、誰も知らない。