バケツ

言葉を吐きます

うさぎの自殺

うさぎの自殺

ある山に二匹のうさぎがいました。
彼らは兄弟で、兄うさぎは自信家、弟うさぎは逆の性格でした。

ある日二匹で山の中を散歩している時、兄うさぎは言いました
「は〜、なんか今の生活がずっと続くのかなとか思うとさ、嫌になるわ」
弟も返事をします
「でも僕らうさぎだし、今の生活が限界だよ」
「いやどうせなら一回の人生なんだし、パァーッと何か一花咲かせて死にたいっていうかさ、どうせいつ肉食動物に食べられるかわかんないわけだし」
「お兄ちゃん、”人”生って言ってるけど、僕らうさぎだからね」
「そうだったな!」

そう言って二匹は、木陰でくすくすと笑いました。
木々のざわめきが彼らの笑い声をかき消しているようでした。
そして二匹の会話はあたりが暗くなるまで続いたのです。


その夜、二匹はいつものように土に掘った巣穴の中で眠ろうとしていました。
真っ暗な穴の中で兄うさぎは言いました
「突然なんだけど弟よ、俺たちうさぎはさ、実は人に”羽”って数えられてるらしい。つまり逆説的に考えると、俺たちって実は鳥で、飛べるんじゃないかなって思うんだ。ほらこの耳。見てみろ今にも羽ばたきそうだ」
「兄ちゃん冗談やめてよ。僕たちはまぎれもなく飛べない哺乳類だよ」
「いやそれで実はさ、俺の体を使って、飛べるか実験しようと思うんだ。」
「え?」
「どうせこの山の中で生活してても楽しいことなんてありやしない。そりゃお前との会話は楽しいけど、俺はもっと楽しいことがしたいんだ。大丈夫、俺が死んだってお前は寂しくなって死んだりしない。うさぎが寂しくて死ぬとかあれ、嘘だから」
「にいちゃんふざけないでよ」
「俺は本気だ。明日、山の東側の崖から飛ぶ。見てろ」
「・・・」

そう言って兄はいつものように眠りにつきました。
弟は胸の動悸がおさまらずなかなか寝つけませんでした。
巣穴の入り口からわずかに見える星空を見ても、星は答えを教えてはくれませんでした。
大丈夫かな・・・そう思いながら、気づくと弟は眠りについていました。

朝、目がさめると、兄が隣にいないことを気づきました。
急いで巣穴から出ると、入り口で兄が待っていました。
「いい朝だ」
「本当に行くの?」
「おう、行くぞ、今日は快晴だから、飛ぶには絶好のチャンスだ」
「・・・」
二匹は無言で東の崖まで行きました。
言葉が浮かばなかったのです。ものすごく長く感じた移動でした。


そして崖につきました。
朝日が二匹の影を森の木陰につなげています。
兄は言います
「思ったより高いな」
「やめようよ」
「じゃあ、飛ぶからな。お前が俺が飛んだという証”人”になってくれ、うさぎだけど」
「にいちゃん、そろそろ冗談やめてよ」
「よし、飛ぶぞ・・・」
「やめてったら!!」
「ダメだ!!」
そう言って兄うさぎが崖から飛び降りようと足を踏み出した次の瞬間

死角から目にも留まらぬ速さで鷹が飛んできて、兄うさぎの体を両足で掴みました。
鷹はそのまま大きな羽を広げて北の空の向こうに飛んでいきます。
兄うさぎは体にしっかりと食い込む爪の感触にもがくこともできず、ただ脱力しました。
そして弟の方を見ながら最後の力を振り絞って「ほら、飛べただろ」と大声で言いました。その声は崖に反響して崖下の森に響きました。

 

弟うさぎは呆然と兄うさぎが鷹に掴まれ飛んで行く姿を眺めていました

そして、弟うさぎは眩しい朝日の中、垂れた耳を引きずりながら、山の茂みに戻って行くのでした。