船に乗る
船に乗る
船に乗る
行き先の知らない客船に乗る
甲板に出ると、冷たい海風と照りつける日差しを受けて輝く海が眼下に広がる
段々と港が遠くなって、もう元いた場所には戻れないような気がする
遠くに雲が見える
それは海という荒野に反り立つ山のようにも見えるし、昔映画で見た大きな怪獣みたいにも見える
静かな波の音とエンジン音、子供が甲板をかける音、遠くから聞こえる海鳥の声が合わさって頭の中で一つの音楽になる
掴んだ手すりは塗装が部分的に剥がれていて、その下の金属は錆びている
目を瞑って、バグパイプみたいにお腹を膨らまして息を吸って、まるで自分が潮風になったみたいにゆっくりと息を吐く
しばらくそうした後に目を開けると、遠くに島の影が見える
そいつはまるで故郷みたいな顔をして、ゆっくりと迫ってくる
赤信号渡るなら、堂々と渡れ。
赤信号渡るなら、堂々と渡れ。
自転車で俺は、家から駅までの道を走り始めた。
冬の冷たい風、温かい日差し
よく通りすがる公園にはいつも人がいない
住宅街を抜け大通り沿いの歩道に出ると、車の騒音が一層大きくなった。
その時目に付いたのが彼女だ。
息を切らしながら走る彼女
ショートヘアに細身のスキニージーンズ、黒いウールのジャケット、自身の顔を最大限に生かしていて、ケバケバしくならない程度に抑えられて施された化粧
おそらく、駅までの道を急いでいるのだろう
赤信号で横断歩道を渡れなくなっても、横断しようと行き交う車の様子をしきり伺っている
それを見て、俺は溢れんばかりの下心に蓋をした。
ただの蓋じゃあない。鉄の蓋だ。
しかも蓋と本体の継ぎ目を溶接でガチガチに固めてある。ちょっとやそっと、いや国中の男が総出でも外れることはないだろう。
俺の蓋はそういう蓋だ。
そして俺は彼女に自転車で並ぶとこう声をかけた。
「お急ぎですか?」
「はぁ、、はぁ、、、え?」
「良かったら、自転車貸しますよ。駅前のフレッシュネスバーガーの前に止めてくれてればいいんで」
「本当ですか!?」
彼女は目を見開いて俺を見る。俺は澄ました顔で彼女を見る。
今の俺、めちゃくちゃキマってる。爽やかオブ爽やか。彼女はきっとそんな俺に魅力を感じたに違いない。
「どうぞ」
俺は自転車を降りると、そのハンドルを彼女の方に渡した。
「ありがとうございます!」
そう言って彼女はペダルに足をかけ、走り出す。
俺は思い出してとっさに声を出す
「あ!よかったら連絡してください!俺の電話番号、0903246.....なんで!!」
彼女はこっちを振り向いて笑い、そのまま走り去った。
こうして俺は駅までの道のりを徒歩で移動することになった。
自転車から降りると
急に世界がスローモーションで再生され始めたような感覚
いつもよりもより一層、車の排気音など街に流れる音が強調されているような感覚
自分だけの力でできることなど、高が知れているのではないかという思いが浮き上がる、無力感に近い感覚
がする。
しばらく歩くと横断歩道に差し替さった。
信号は赤だ。横を見ると、自分以外に2人の人が信号が変わるのを待っている。
50代後半の、そこそこしっかり化粧をしてシワのない服を着ている、まだ女を捨ててない雰囲気のするオバサン、シワの具合から60代過ぎで、肌着を着た散歩中であろうオヤジ。
きっと自転車を貸した彼女も、この横断歩道の信号が4回、いや5回か6回変わる前にここを渡ったのだろう、そう、俺の自転車で。
しばらくすると、ピタリと車の流れが止んだ。ここの信号は、変わるまでが結構長い。
オヤジは躊躇なく横断歩道を渡り始める。もう俺には恥も失うものも何もないといったなんの迷いもない歩き。
それを見て三歩ほど遅れて、オバサンも横断歩道を渡り始める
私は赤信号を無視していませんし、もししていたとしてもそんなこと私は知りません。前の人が歩いたから渡ったの。私の責任じゃないわ。そう思い込みたくて仕方がないといった、恐る恐るした歩き方。
おいババア、赤信号渡るなら、もっと堂々と渡ってくれ。
心の中でオバサンに言う。
ゆっくり待つのも良いだろうと思い、俺は信号が変わるまで待つことにした。
しばらく歩いて、駅に着く。
フレッシュネスバーガーの前に自分の自転車を見つける。
駐輪場に自転車を置き、買い物を済ませ家路につく。
自転車を貸した彼女からの連絡は、来ないままだ。
これまで作った曲
主にバンドしているときに作った曲で、上二つ以外はデモとしてバンドメンバーに聞いてもらってアレンジしてもらうために作ったものです
上二つはバンドメンバーと協力してちゃんと作ったやつです
上から聴きやすい順
最初に作った曲。アニソンみたいな聴きやすさ分かり易さを重視した
アレンジをほぼバンドメンバーに頼んだ
フクザワさんというイラストレーターの個展で流してもらったので思い出深い
メロディーが綺麗な感じだけど悪意も込めて作った
解散する直前に作ったやつ
最初の方に作ったけど合わせるの難しそうだったのでお蔵入りになった
最初の方に作ったやつ。ゾンビが出てくるのは完全にウォーキングデッドの影響
解散する直前に作ったやつ2
かわいい感じです
あまり可愛くはない
悪意を込めて作った
くじらの歌
くじらの歌
僕はくじらの歌を聴くのが好きでした。
くじらの歌は、村の西側に面した海に竹などを切って中をくりぬいた筒をつくり、それの先を海面に浸してもう片側を耳を当てることで聴くことができました。
くじらの歌はある日はゴオオオといううなり声のようなものであったり、ある日は草笛のような美しい音色であったりしました。
しかしくじらの歌と言っても、僕は本当にその音たちがくじらが歌っていた声なのかは知りません。
僕たちの村では、海の中心にはくじらという大きな魚がいて、そこから沢山の魚たちが生み出されたり波を起こしたりするとされていました。
ですので、海の中から聞こえる不思議な音たちは全てくじらが歌っているとされていたのです。
もちろんほかの村人もそのことは知っていましたが僕以外は、誰1人してその話題を口にすることはありませんでした
村人にくじらの歌の話をすると、未だにそんなこと気にしているのかとバカにされるだけで、僕は変人扱いされていたくらいです
くじらの歌にはだれも興味が無かったのです。
しかし、それも仕方のないことでした。
平和な村でしたし、ここから出ようとする者はいません。
外からきこえるくじらの歌を聴いていたところで、何か意味があるとは思えません。
それよりも村の中でのことに皆の興味が向いていて、やれ誰かがこんなことドジをしたや、誰かより他の方が腕っぷしが強いという自慢などか話題の中心でした。
でも、そのような大抵のことは僕にとってはあまり関係がない話のように思えました。
ある日、僕は干物作りの仕事を終えていつものようにくじらの歌を聴きに海岸へ行きました。
竹筒を海につけて耳を当てます。
そのとき、すごく曖昧なのですが、何か嫌な予感がしました。
これまでに聞いたことの無いような低い音が竹筒から聞こえたからです。
低い音は徐々に大きくなっていき、竹筒が軽く振動するほどに大きくなったとき、僕はこれから何か大きなことが起きるに違いないと確信しました。
僕は海から離れ、近くの低い山に走りました。
無我夢中で、足に切り傷がいくつ出来たかわかりません。
山の頂上に着いたとき、大きな揺れと共に樹木の倍ほどの高さがある大きな波が海岸に押し寄せ、全てを飲み込んで行きました。
家々は崩れ、人々もそれと共に流されていきます。
恐ろしい光景でした。跡には何も残っておらず、そんなことすっかり忘れてしまったとでも言いたげに静かな波が打ち寄せていたのが印象的でした。
そして、僕だけが生き残りました。
木の残骸で小さな小屋をつくり、釣った魚を食べ、眠りました。
今も変わらず、僕だけがくじらの歌を聴きに海へ行きます。